ペスト

紹介文

今、新型コロナウイルス感染症が全国に脅威を与えている中、話題になっている本があります。
 それは、フランスのノーベル文学賞作家、アルベール・カミュ(1913~1960年)が
1947年に発表した『ペスト』です。
 今の新型コロナウイルスの拡大状況が小説の中身とリンクして感動をよんでいるとのこと。
「この困難をどう乗り越えるか。医師の奮闘や仲間との連帯、愛する人を思う心、
犠牲者に寄り添うこと、自分にできることをするなど多くの教訓が読み取れる。」

私も昨日、書店で購入したばかりなのですが、読んでいないのに紹介してすみません。
皆さんも読んでみませんか。私が行った書店には何冊かありましたが、
今品切れになる書店も出ているそうです。お早めにどうぞ。

内容
 舞台は1940年代のアルジェリア・オラン市。
高い致死率を持つ伝染病ペストの発生が確認され、感染拡大を防ぐために街が封鎖される。
外部と遮断された孤立状態の中で、猛威を振るうペストにより、突如直面する「死」の恐怖、
愛する人との別れや、見えない敵と闘う市民を描いた作品です。

書評『コロナ・ウィルスと寓意小説』
 『ペスト』の読後感が変わったのには、いまわれわれを取り巻く「状況」も関係しているだろう。
 病原菌とウィルスではまったく違うが、都市封鎖という小説のなかの出来事は、
武漢どころか、日本の玄関口でも見ることができた。
ダイヤモンド・プリンセス号の船内封鎖の推移を毎日テレビで追いながら、
刻々と、見ているこちら側も日本という国に封鎖されていくという実感をもたずにはいられなかった。
状況の細部は違うのに、『ペスト』の、「それは自宅への流刑であった」という
一行がわれわれの感覚を言い当てているように感じられた。

 オラン市内を走る満員電車の描写にも、
「すべての乗客は、できうるかぎりの範囲で背を向け合って、互いに伝染を避けようとしている」
とあって、深くうなずいていた。
コロナ・ウィルスが報道されるようになって、電車のなかで、
どうしてもマスクをしていない乗客を避けようとしてしまう自分がいる。
それこそ、背中を向けてしまうことだってある。
風邪やインフルの流行時には、むしろマスクの人を避けていたのに。

  夏の海水浴が禁止されたことを語るくだりに、ペストが「あらゆる喜びを追い払ってしまった」
というひと言を見つけ、ライブの中止やら、Jリーグやプロ野球の試合延期を連想してしまう。
その意味でも、われわれは「自宅への流刑」を余儀なくされている。

 われわれの“いま”と重ねて『ペスト』を読むことは邪道かもしれないが、
小説の面白みはたしかに倍加される。寓意に充ちた『ペスト』の力もそこにあって、
『ペスト』が売れだしていることじたい、この小説が「自宅への流刑」に必要なアイテムになる、
と人びとが気づきはじめているからだろうか。
      芳川泰久(フランス文学者)

詳細

  • 生徒★★★   保護者★★★★
  • ペスト
  • カミュ(著) 宮崎嶺雄(訳)
  • 新潮文庫 ¥750+税