つらい仕事ほど感謝される

『みんなで探したちょっといい話』志賀内泰弘著から紹介します。
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宮崎県の中元さんからいいお話が届きました。
中元さんは高校の英語の先生です。

中元さんの高校にはAさんという、私がひそかに師と
仰ぐ清掃担当の女性がいらっしゃいます。
私が、「こんにちは」と挨拶すると、満面の笑みで、
「ありがとうございます」と言ってくださいます。
 
 初めてAさんのトイレ掃除を見たとき、
私はびっくり仰天してしまいました。
汚れた便器を、素手で雑巾を持ち、奥まで手を突っ込んで、
全身を揺らしながら、ゴシゴシ磨いているのです。
 先日、生徒たちに「あなたの見つけたプチ紳士・プチ淑女」
(身の回りのいい話)というテーマで、レポートを書いてもらった時のことです。
その中の何人かの生徒が、Aさんについて書いてくれていました。
「私の学校のトイレ掃除のおばちゃんは、いつも笑顔で挨拶をしてくれます。
素手で、ニコニコしながら掃除をしています。」
「決して楽しい仕事じゃないのに笑顔でいられるのは、
すごいなあと思います。」

私はそのレポートを拡大コピーして、Aさんに渡しました。
Aさんはいつもの笑顔で、「ありがとうございます」と、
とても喜んでくれました。
そして、次のように話してくださったのです。
「私は頭が悪いから、トイレ掃除だけは一生懸命やろうと思っています。
この仕事が決まったとき、息子から『生徒は学校に勉強しに行っているとよ。
母ちゃんは邪魔にならんようにね』と言われたんですよ。
だから、それだけは気をつけています。」
 私はその時、悪事がばれてテレビで謝罪しているような「偉い人」よりも、
この小柄な「トイレ掃除のおばちゃん」のほうが、はるかに人間として上だと確信しました。

そして、Aさんが喜んでくれたことを、レポートを書いた生徒に伝えました。
それを聞いた生徒もまた、喜んでくれました。

公衆のトイレは、いつも誰かが掃除をしてくれています。
でも、使っている時には、そんなことは考えないものです。
掃除をしてくれている人が見えないのですね。
でも、人の見えないところで、人のために一生懸命に働いている人がいます。
そうした行為に「感謝」の心をいだくと、見えないものが見えてきます。

人の気づかないところで、皆のために懸命に働いている人がいる。