感謝婦人

『笑顔で光って輝いて』小林正観著から紹介します。
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 作家の三浦綾子さんは「私は病気のデパートだ。ありとあらゆる病気をやった。」と、エッセイの中に書きつづっています。
 その中でも、脊椎カリエスは激痛につぐ激痛で、その痛みを二十年間我慢し続けていました。
しかし、ある薬が開発され、薬を飲むと痛みが半減するようになりました。
三浦さんはその薬を飲み続けていましたが、筋肉が硬直してしまうという副作用がありました。
硬直しないように、毎回合計数時間、誰かにマッサージをしてもらわなければなりません。
このマッサージを、誰にしてもらうかという点にあたっては、夫が「僕がやろう」と、
二十年間毎日マッサージをしてくれました。
 やってもらうたびに「ありがとう、ごめんなさい」と言い、申し訳ないという気持ちでいっぱいだったそうです。
そのたびに、夫は「It‘s my pleasure.(僕の喜びだ。)」と言い続け、
この言葉を聞くたびに、何度も涙を流し、どれほど泣いたことか、とエッセイに書かれています。

 三浦綾子さんはクリスチャン(キリスト教の信徒)でした。
 そのクリスチャンの仲間に、どんな話題に対しても「ありがたいですよね。感謝ですよね。」
と答える「感謝婦人」と呼ばれている方がいました。

 ある時、二十日間もの長雨が続きました。
洗濯物も乾かないし、農作物もなかなか育ちません。
いくらなんでも、どう考えても感謝婦人から「ありがたいですよね。」という言葉が出てこないだろうと、
三浦綾子さんと感謝婦人との共通の友人が思いました。
その友人は、自分の頭の中で考えに考え、「ありがたいですよね。神様に感謝ですね。」と言えるとしたら、どんな理由が考えつくかと知恵を振り絞って考えていました。
 しかし、どう考えても、「ありがたい」という理由が出てきません。
感謝婦人に聞いたら、どう反応するのか、どういう答えを返すのかとワクワクしていると、
ある日のこと、感謝婦人とばったり会うことができました。

 友人が感謝婦人に話しかけました。
「それにしてもよく雨が降りますね。二十日も続くと困りますよね。」
この言葉に対して、感謝婦人はニッコリ笑って、このように答えました。
「ありがたいですよね。感謝ですよね。
これだけの雨を神様がもし、一日で降らせたとしたら、
ありとあらゆる川が氾濫して、たくさんの人が困ったでしょうね。
限りない優しさと愛情に満ちた神様は、これだけの量を一日で降らせないで、
二十日間に分けて降らせてくださっているのですよね。
本当に感謝ですよね。ありがたいですよね。」

 感謝婦人の話を紹介したうえで、三浦綾子さんはこのように書いています。
「意気地なしの私に、この痛みが一日で来たら私は絶対に耐えられなかった。
限りない優しさをもって、神様はこの痛みを二十年に分けて送ってくださっているんだ。
神様ありがとう。」

 二十年、悩んで苦しんで、激痛に耐えてきた人が、
感謝婦人の一言を聞いて、わが身に置き換え、
その痛みを「二十年に分けてくださってありがとう」と書いて、その文章を結んでいます。

人間は、ここまでとらえ方を向上させることができるのです。
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自分の身の回りに起こったどんなことでも、感謝する。
そんな人の心はどんなに安らかで、落ち着いているんでしょうか。

私はクリスチャンではではありませんが、この話が心に残りました。