注文をまちがえる料理店

6月6日の愛媛新聞から紹介します。

接客スタッフ全員が認知症というレストラン「注文をまちがえる料理店」を企画した
小国士朗さんによる講演が新居浜市でありました。
小国さんが「注文をまちがえる料理店」を思いついたのは、今から5年前のこと。
当時ディレクターを務めていた番組でのある取材がきっかけだったそうです。 

2018年にNHKをやめフリーのプロデューサーとして活動する小国さんが、
料理店が誕生した経緯や目指していること、展望などについて話しました。 
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「当時の僕は認知症介護のグループホームを取材していました。
このグループホームは、認知症の方であっても自分ができることはすべて本人が行います。
ロケの合間に彼らの作る料理をごちそうになる機会が何度かあったのですが、
ある日『今日はハンバーグ』と聞いていたのに、出てきたのは餃子だったんです。 

間違いを指摘しようかと思いましたが、ふと思いとどまりました。
それを言うことで、この食事が台無しになってしまう気がしたんです。
考えてみれば、ハンバーグが餃子になったって別に誰も困らない。
こうじゃないといけない、という考えに自分自身がとらわれていて、
それこそが介護の現場を窮屈にしてしまっている、そんな気がしました。 

小さなことにこだわっていた自分が恥ずかしくなったと同時に、
『注文をまちがえる料理店』というワードが突然思い浮かんだんです
。僕はハンバーグを注文したけど、餃子が出てきてしまう。
オーダーと違うものが出てきても、店名で『間違える』と言っているからダメじゃない。
これはかなり面白いんじゃないかと思って、ずっと企画をあたためてきました。 

小国さんは実際に期間限定で開店しました。
いざオープンしてみると、
認知症のおじいちゃん、おばあちゃんはサラダにスプーンをつけて出したり、
ホットコーヒーにストローを添えて出したり……。注文もやっぱり間違えています。
だけど、そのことにいら立ったり、怒ったりする人は誰一人としていませんでした。
むしろ間違ったことがコミュニケーションになり、いろんなことが和やかに解決されていく。
これはすごい、と思いました。  

みんながちょっとだけ寛容になれば、居心地のいい社会になる 

『注文をまちがえる料理店』も、この活動で認知症の人のさまざまな問題が解消されるわけではありません。
だけど間違えても『ま、いいか』と思えるような寛容さを社会の側が持つことで、みんなが楽になる。
それはあくまで仮説にすぎませんでしたが、このプロジェクトをやることで可能性が見えたと思っています。

しかし、『間違えたり忘れたりしても、ま、いいか』そう思えるだけでほっと心が軽くなるのだとしたら
、認知症のあるなしに関係なく、みんなにとって居心地のいい社会になるんじゃないでしょうか。
そういうほんのちょっとの寛容の精神をどうやったら持てるようになるかということは、
考え続けていきたいですね 

小国さんが語ってくれた、社会に対してちょっとだけ寛容になるということ。
それは認知症の方との付き合い方を考えると同時に、私たちの仕事や日常生活を見直すヒントにもなりそうです。
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間違いやちょっとしたことが気になって、つい不機嫌になってしまう経験は誰でもあるもの。
だけどそれを「ま、いいか」と思えるようになることで、悩んでいたことや苦しかったことがうそのように楽になることがあります。
これからを担う私たち一人ひとりがその気持ちを持っていれば、
今よりたくさんの笑顔で生活できる社会へと、変えていく大きな力になるかもしれませんね。