笑顔の魔法
愛媛県が主催する「愛顔感動ものがたり」の受賞作品が発表されました。
その中で「エピソード部門」一般の部「知事賞」が素晴らしい作品だったので紹介します。
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笑顔の魔法
長友奈奈(熊本県)
幼い頃、自分は世界一幸運な子どもだと信じていた。
それには理由があった。
ミッキーマウスの目覚まし時計。
母がくれたものだ。
「奈奈、この目覚まし時計にはね、魔法がかけてあるの。
この目覚ましを自分で止めて起きた日には、必ずいいことが起こるのよ。」
魔法の物語が大好きだった私は、飛び上がって喜んだ。
次の日から、私の人生はひっくり返った。
通学路でいつもほえる犬がほえない。
席替えでは仲のいい友達の隣になるし、運動会や遠足の日は必ず晴れた。
この目覚まし時計があれば、私はずっと幸運でいられる。
そう思っていたのに。
ある朝、ベルが鳴る前に目を覚ました。
見てみると、目覚まし時計が止まっている。
「壊れたんだ。」
私は真っ青になった。
その日から、今までたまっていた不運が私のドアをノックした。
高校受験では受験票をなくす。
入学式の当日に転んで前歯を折る。
バレンタインでは、チョコを入れる靴箱を間違えるという失態までした。
母のかけてくれた魔法は解け、私は世界一幸運な子どもから普通に運が悪い人になってしまった。
そんな私も、不運続きだったわけではない。
結婚したい、と思える人に出会えたからだ。
プロポーズされた時、自分の運のなさとその理由を伝えた。
そんな私を、彼は受け入れてくれた。
新居が決まって引越した夜、私の人生は再びひっくり返ることになる。
新生活のお祝いに、と彼がプレゼントをくれた。
ミッキーマウスの目覚まし時計。
母からもらったものとデザインは少し違うけれど、
それは確かにミッキーマウスの目覚まし時計だった。
「この目覚まし時計には、魔法がかけてあるんだ。
どんな魔法かは、奈奈がよく知っているよね。
約束するよ。もし何もいいことがなかった日には、
俺が魔法の代わりに奈奈を笑顔にする。」
プロポーズされた時よりも、指輪をもらった時よりも
私は泣いた。そして二人で笑った。
夫がかけてくれた笑顔の魔法は、今も解けていない。
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ほしいですね。魔法の目覚まし時計。