赤信号、みんなで渡れば怖くない
志賀内泰弘さんのメルマガ「ギブアンドギブ」から
ちょっといい話『当たり前のことなのに感動しました』を紹介します。
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車で家を出ました。
いつもの角を曲がって、いつもの幹線道路へと出ました。
そして、いつものように6つ目の信号を左折しようとしたのですが、その日に限ってなかなか曲がれませんでした。
その交差点には、地下鉄の出入り口があります。そこから次々と学生たちが吐き出されてくるのです。
後で聞いた話。その日は、すぐ近くの大学のオープンキャンパスで、高校生が見学のためにやってきていたのだそうです。
もちろん、信号は青ですから、私はじっと学生が横断歩道を渡り終えるのを待ちました。
やがて、歩行者専用の信号機の「青」が点滅し始めました。そして、「赤」に替わりました。
ところが、です。学生たちは、どうしたことが横断歩道を渡り続けるのです。困りました。
私は、交差点で曲がりかけており、車が斜めになったまま動くことができません。
そんな状態は、誰でもパッと見れば理解できるはずなのに、まだまだ渡り続けるのです。
ちょっと昔、こんなお笑いネタがありました。
「赤信号 みんなで渡れば怖くない」
まさしく、それを地でいっているわけでしょうか。もう止まるだろう、もう止まるだろう、
とイライラしながら待ち続けますが、いっこうにその人の流れは止まりません。
思いました。日本という国は、いつの間にこんなことになってしまったのだろうか。
それも若者たちがです。
私は、クラクションを鳴らそうかと迷いながら、こんなことを考えました。
それは、いっこうに止むことのない、企業の不正事件です。
思いつくだけでも、スルガ銀行、SUBALU、東洋ゴム、神戸製鋼所、スズキ、三菱自動車、
赤福、白い恋人、不二家、カネボウ化粧品、オリンパス、雪印、阪急阪神ホテルズ・・・。
これらはほんの一部。たくさんの企業が不正に手を染めています。
なぜ、こんなに次から次へと発覚するのか、不思議でなりません。
だって、他社で大騒ぎになったら、「うちは大丈夫だろうか?」と調査し、
もしも、不正が見つかったのなら、それを正す処置をしているはずです。
にもかかわらず、いっこうに企業の不正は続いているのです。
それには、「赤信号 みんなで渡れば怖くない」という意識が、
多くの人の心の中に潜んでいるからではないか、と考えます。
「どの会社でもやっているから」「同僚や先輩もやっているから」という、
集団の意識。それによって感覚がマヒしているのではないか。
ここで、話を戻します。信号の交差点での場面です。
私は、「もうダメだ、このままでは交通渋滞を巻き起こしてしまう」と思い、クラクションを鳴らそうとしました。
その時です。横断歩道へ一歩踏み出した青年が、パッと歩行者信号に視線を向けたかと思うと、サッと飛ぶようにして、後ずさりしました。
その彼を追い越して、2.3人の学生が渡って行きました。
でも、それがきっかけで、地下鉄の出入り口からどんどんと出て来る学生は、彼の後ろで止まったのです。
「そんなの当たり前だろう!」という声が聞こえてきそうです。
そうなのです。当たり前なのです。
でも、当たり前のことが、できていないのが、今の日本なのです。
残念ですが、それが事実。企業の不正事件が、それを物語っています。
それは学生ではなく、立派な大人たちが引き起こしている。
誰が、若者に諭(さと)すことができるのでしょう。
きっと、赤信号を無視して渡り続けた学生たちに、罪の意識はないに違いありません。
「前の人が歩いている。私は、その後を付いて行っているだけ」
そんな程度の認識かもしれません。
そんな集団の「魔法」というか「呪縛」に囚われず、サッと後ずさりして止まった青年に、私は拍手を送りたいです!
彼にはぜひ、企業人、組織人になっても、「上司の命令だから」とか「会社の慣例だから」
といってされる不正には毅然として立ち向かってほしい。
そう願うのです。
え?・・・そんな大袈裟(おおげさ)な?はい、大袈裟です。
笑って下さってもかまいません。
「そんなバカ正直な奴は出世しないぞ」「社会とは、長い物に巻かれることだ」
「清濁(せいだく)を併(あわ)せのむのが世の中だ」と、おっしゃる方もおられるでしょう。
でも、あえて、反論します。
企業の不正が発覚したあと、そのツケがいかに大きいか。
チェックの紺色のカジュアルジャケットを羽織り、太い黒縁メガネのあの青年!そうだよ、キミのことです。
カッコ良かったぜ!!(当たり前のことだけどね)